施主はわがままであるべき

仕様変更で可能な限りコストダウン

誰しも胸を膨らませるマイホーム。
お施主様の夢は広がり、同時に要望はどんどん増えてゆく……
親世帯と子世帯、お孫さんが3人。更に猫は2匹、犬も1匹。
みんなそれぞれ、希望があるんです。
担当した設計士は言いました。"施主はわがままであるべきだ"と。

コストを上げさせないのが設計士の腕の見せどころ
家族の要望
子供部屋は2部屋、広い玄関、吹き抜け、家事スペース、家族全員(7~10人)で食事のできるダイニング、床暖房が欲しい。
奥様の要望
2階への階段は曲線がいい。コンサバトリーが欲しい。洗濯機・冷蔵庫は2つずつ必要で、それとは別に冷凍庫も1つ必要。パントリーも欲しい。
旦那様の要望
ホームシアターが欲しい。
親世帯 奥様の要望
使いやすいキッチンがいい。続き間の和室が2つは欲しい。
親世帯 旦那様の要望
掃除しやすい家がいい。

あまりにも多いお施主様からの要望に、苦悩する設計士。 しかし、住む人全員にとって大切な住まいなのですから、大家族になれば要望が増えるのは当然です。
奥様のご希望である「コンサバトリー」とは温室という意味で、住居と繋がったサンルームのこと。
「パントリー」とは食料庫のことを指します。

とりあえずプランを作成したものの、要望をそのまま全て盛り込むと予算オーバーに……
設計士が設計図と睨み合っている間に、お施主様たちは住空館にてキッチンを検討。 2階に展示している、白いフラットタイプのキッチンが新居に採用される運びとなりました。

コンサバトリー
実際に施工されたコンサバトリー

キッチン
住空館2階のキッチン

やがて1つ目のプランが完成し、出された要望はほぼ網羅しているものの、どうもスッキリしない……。 設計士の中で、お施主様の要望であるコンサバトリーの扱いに迷いがありました。

名前
コンサバトリーを室内と一体化させるのではなく、外へ出してはどうでしょう。
その方が使い勝手も良いし、プランもスッキリしたものになるのでコストも下がります。実際に生活することをイメージしてみてください。
どうですか?
名前
使い勝手が良くなるならいいよ。確かに、そうした方がリビングの一部としても使えるし、テラスとしても使える。 こっちの方がいいかも……

賛同していただきホッとしたのもつかの間、書き起こされた設計図を見ていると、新たな要望がどんどん湧いてきます。

名前
和室を1室にして、お母さんの仕事部屋を追加したいなあ。 できるだけ暗くなるスペースを減らして、1部屋のサイズをもう少し大きく……

そして2つめのプランが完成。
和室を1部屋減らしたことで、かなりスッキリとしたプランニングになりました。

プランニング
コンサバトリーの他にも色々と変更点が…

また、吹き抜けにキャットウォークを設け、リビングを遊びのある空間に。 そして、お施主様が大量の本を持っていることから、壁一面に作り付けの本棚をデザイン。 和室は減らしたものの、いざというときには大勢の人が入れるように、玄関ホールを広めに取りました。 こうすることで、襖を外せばそれなりの人数を招き入れる事ができます。

作り付けの本棚
本棚の前の広い廊下はお孫さんが遊ぶスペースにも

名前
オープンタイプのキッチンなので、多少使い勝手が悪くても、冷蔵庫は側面に持って行きたいな。 子供部屋は勾配屋根にして欲しいし、ホームシアターも変更して欲しいところがある。
名前
階段はアルミでいいね。
名前
できる限り扉は引き戸にしたい。子供部屋の位置を、この設計図とは反対にして欲しい。 台所にも床暖房が欲しいなあ。……ところで猫トイレ、どこに置こうか?
階段
リビングを印象づける大きな階段

お施主様にとって大切な「家」だからこそ、設計士はどこまでも付き合います。
そうして打ち合わせを何度も重ね、話し合い、設計図を修正しながら次第に、「理想の住まい」の輪郭が出来上がっていきます。

名前
屋根裏に猫専用トイレ+収納を作ったらどうですか?部屋もスッキリするし、猫砂や餌も一緒に保管できますよ。
床暖房は、施工費とランニングコストを考慮して、キッチンには電気式のものを、リビングには温水式のものを導入されるといいと思います。
名前
そうだね。
キッチンの床暖房は朝の支度くらいでしか使わないから、ランニングコストがかさむより施工費が安くなるほうが助かる。 猫トイレは屋根裏にしよう。

さて、段々と詳細が決まっていきますが、予想見積額は上がっていく一方……
お施主様はどうしても全てを盛り込んで欲しいとおっしゃいます。

最終的な見積もりはやはり予算を大幅にオーバー。
けれども、無理に部屋を削ったりせず、お施主様の要望を盛り込みながらも、設備仕様の変更でなんとか予算内に収めることに成功しました。

名前
お母様が料理好き、若奥様が掃除好きということで、収納とキッチンにこだわりました。
現在のお住まいはダイニングキッチンが狭いため、今回は家族7人全員が団欒できる、広々とした開放的な空間を中心に住まいづくりをしました。
今回のケースのように、数々の要望を取り込むと当然建築費はあがります。 そうなればコストを抑える必要がでてきます。ただし、コストを抑える工夫は、面積を減らしたり設備のランクを下げたりするだけではありません。

例えば、構造をシンプルにすることで職人の手間を減らすこともできます。無意味な手間賃を発生させない設計をすることも大切なことだと私は考えます。
リビング
開放感のあるリビングはホームシアターにも

何が無駄で、何が無駄ではないか。どうすればお施主様の希望を叶えつつ、コストを削減できるのか。 設計士は常に、様々な面からベストな家造りを考えています。


近影
デザイナーの視点
当然のことですが、住宅は一番長くいる人・使う人が居心地の良い空間であるべきだと思います。
基本的に住宅を建てようとする人はみんな我がままです。大事なことだけに、あれこれ要望が出ることは当然です。 しかし、お施主様の要望をすべて盛り込むことだけが、住みやすさ・快適さにつながるわけではありません。 お施主様の要望が、どうして・何を思って出てきたものなのかを しっかりと聞き、より住みよい快適な設計を心がけています。
話し合いを重ねていくうちに、本当に必要なものが何なのか、お互いに分かってきますから。
  • 設計士
  • 1963年 静岡県沼津市生まれ
  • 1983年 日本大学短期学部建築科卒業
  • 2つの設計事務所、ハウスメーカーを経て現在に至る。女性ならではのプランニングが得意。
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